大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和60年(行コ)17号 判決

千葉県成田市本町五八七番地

控訴人

北総興業 株式会社

右代表者代表取締役

諸岡璋二

右訴訟代理人弁護士

斎藤尚志

千葉県成田市花崎町八一二番一二

被控訴人

成田税務署長

安藤又久

右指定代理人

榎本恒男

江口育夫

小林正樹

岡田則男

右当事者間の法人税の更正処分等取消請求控訴事件につき、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が昭和五六年四月二八日でなした、控訴人の昭和五三年四月一日から昭和五四年三月三一日までの事業年度の法人税更正処分につき、所得金額五二六六万七五五四円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分は、これを取り消す。

3  訴訟費用は、第一、二審とも控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文同旨

第二当事者の主張

当事者双方の主張は、次に付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

一  控訴人

1  控訴人は、その所有する土地を、他に賃貸するなどして固定資産として所有しており、本件土地についても販売の目的で所有していたものではない。

2  被控訴人は、控訴人のなした昭和四六年五月三一日の日本道路公団への売買については、措置法六五条の二第一項による特別控除を認めておきながら、右の当時と同じ状況下での本件譲渡について突如として右の取扱いを変更し、右の特別控除を認めなかったのであり、これは、税法における信義則に反する課税である。

二  被控訴人

控訴人の右一2の主張は争う。控訴人主張の信義則違反とは、いわゆる表示による禁反言というものと解されるが、その趣旨は、自己の言動(表示)により他人をしてある事実を誤信せしめた者は、その誤信に基づき、その事実を前提として行動した他人に対し、それと矛盾した事実を主張することを禁ぜられる、とするにあるものと考えられ、一般に禁反言の適用される表示とは、事実の表示であることを要し、また、禁反言の適用を認めると違法な結果を生ずる場合には、その適用が阻却される。本件の場合、控訴人が昭和四七年三月期の譲渡に係る確定申告において、右譲渡があるものとして申告し、それに対して被控訴人が更正処分をしていないことは事実であるが、それは、被控訴人が税務調査をしたうえ、控訴人の申告が正しいものとして更正処分をしなかったのではなく、本来ならば更正処分をすべきであったのに誤って更正処分をしなかったに過ぎないものである。したがって、非課税であると控訴人に通知した事実も、その旨の意見を表示した事実もない。控訴人は、昭和四七年三月期の譲渡について、被控訴人が調査及び更正処分を行わなかったことをもって、本件譲渡についても措置法六五条の二第一項(非課税)の適用があると期待していたに過ぎないものであり、かかる期待に反して、従前の誤りと異なり、被控訴人が正しい法解釈に基づいてした本件更正処分に禁反言の法理を適用する余地は全くない。

第三証拠

証拠については、本件記録中の証拠目録欄記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  当裁判所も、控訴人の本訴請求は、これを失当として棄却すべきものと判断するが、その理由については、次のとおり付加、訂正するほか、原判決がその理由において説示するところと同一であるから、これを引用する。

1  原判決一〇丁裏六行目の「したこと、」の次に、「控訴人代表者の諸岡璋二は千葉県知事から昭和四一年二月七日付で墓地経営許可を受け、昭和四二年一二月同知事に墓地廃止許可申請をし、昭和四三年三月三〇日廃止処分を受けたこと、」を、同一二行目の「していること」の次に「、本件土地は控訴人自ら使用することも他に貸しつけたこともなかったこと、」を、同一一丁表一一行目の「認められる」の次に「甲第三号証の一ないし三、」をそれぞれ付加し、同三行目冒頭の「二」を削除する。

2  同一四丁裏四、五行目の「認められない。」の次に次のとおり付加する。

「控訴人は、その所有の土地を、他へ賃貸するなどして固定資産として所有しており、本件土地についても販売の目的で所有していたものではないと主張するが、控訴人が本件土地を自ら使用したり他に賃貸したりしたことのなかったことは争いのない事実であるうえ、控訴人が本件事業年度以前にその所有する土地を他へ賃貸していたことを認めるに足りる証拠はない(甲第一七号の一の記載は、前掲乙第五号証の一〇ないし一二、第三五号証、成立に争いのない乙第三七号証の一ないし三の各一、二、同号証の四、五に照らしてたやすく措信できない。)。のみならず、たとえ本件事業年度以前に控訴人が本件土地を除く他の所有土地の一部を他へ賃貸するなどしていたとしても、それによって、本件土地をたな卸資産と認定することが妨げられるものでないことは、先に見たところから明らかである。」

3  控訴人は、本件譲渡について措置法六五条の二第一項による特別控除を認めなかったのは、税法における信義則に反する課税である旨主張するので、この点について判断する。控訴人が昭和四六年五月に日本道路公団に対し行った土地譲渡について、同四七年三月期の確定申告において、右譲渡の所得に措置法六五条の二第一項所定の特別控除の適用があるものとして申告したのに対して、被控訴人が更正処分をしていないことは、当事者間に争いがない。しかしながら、仮に右譲渡の所得が特別控除の適用を受けるべきものでなく、従ってこれについて更正処分がなされなかったのは誤った取扱いであったとしても、その故に、本件譲渡の所得につき右と同様の誤った取扱いをすることが信義則上の要請であるとは解することができない。加えて、前記昭和四六年五月の土地譲渡の所有に対する特別控除の適用の有無について被控訴人が積極的にその適用を認める趣旨の通知をしたり、その旨を表示したこともなかった(これは弁論の全趣旨により認められる。)ことを考慮すると、本件更正処分について控訴人が主張するような信義則違反があるとは到底認められず、他に右主張を肯認するに足りる資料はない。

二  よって、控訴人の本訴請求は、これを失当として棄却すべきであり、これと同旨の原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 村岡二郎 裁判官 佐藤繁 裁判官 鈴木敏之)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例